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2665年11月30日

◇「Reich」(ライヒ)の訳語について

 ドイツ語の「Reich」(ライヒ)をどう訳すのかは悩ましい問題です。一般には「帝国」と訳されますが、異論も多いです。ただこういった問題は今に始まったわけではなく、戦前からすでに学会で話題になっていました。以下では戦前の資料を参照にしつつ、「Reich」の訳語についての私見を述べます。

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 軍歌の邦訳をする時にいつも悩むのが「Reich」の訳です。たいてい「帝国」ってやっちゃうんですが、ドイツ語には「帝国」に当たる言葉として「Kaiserreich」(直訳すれば皇帝の国?)という言葉がありますし、また「Frankreich」(フランス)や「Osterreich」(オーストリア)という用例もあって、必ずしも「帝国」とはいえないんですね。

 そこで中には「Das Dritte Reich」(第三帝国)を「第三ライヒ」なんて表現する人もいるわけです。

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 こういった問題は、実は戦前からあったようです。先日、戦前の資料をあさっていたら偶然こんな論稿を見つけました。

 今泉孝太郎著 「第三ライヒの概念」(『ナチスの文化を探る』 昭和15(1940)年刊 慶応出版社)

 この論文で言われているのは、要するに「Reich」とはただの「国家」というよりも「単一民族国家」という意味が強いという事、そしてこういった意味合いはドイツの文化や政治背景に根ざした特有のものであって邦訳はしがたい、という事だと思います。

 ここで著者は面白い例を挙げつつ、この事態を説明します。例えば日本人が「皇国」という言葉を外国語に訳されてもしっくりこないように、ドイツ語の「Reich」を他国語に訳してもうまくいかない、と。確かに「皇国」を「Empire」だとか「Kaiserreich」とされても少し違う気がしますね。

 で英語では「Reich」を「Empire」とせずにそのまま「Reich」としているだろう、と著者は述べ、最終的に著者自身も「ライヒ」という表現をそのまま用いることになります。(ちなみに著者は「Frankreich」などの用例は、「Russland」(ロシア)という言葉における「Land」が本来の意味からは離れているように、この「Reich」の例も本来の意味のものではない、と述べています)

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 というふうな本がすでに戦前に出ていたわけですが、でも私はやっぱり「帝国」かなあと思ってます。というのも、「Reich」という言葉には神秘性だとか、荘厳性も含まれているわけで(「神聖ローマ帝国」(Heiliges Romisches Reich)や「千年王国」(Tausendjahrige Reich)の例)、そういった意味合いは片仮名で「ライヒ」にしちゃうとなんか抜けるような気がするんですね。「ライヒ」って間抜けっぽくないですか、なんか。

 それに比べ、日本語で「帝国」と書いた場合、そこには独特の神秘性というか、威風堂々たる言葉の意味合いが含まれると思います。まさにそういった言葉の雰囲気こそが「Reich」ではないでしょうか。勿論、「帝国」には皇帝や天皇の国って意味合いはあるんですけども、それでも日本は大方「Das Dritte Reich」を「第三帝国」と訳してきて支障はなかったわけですから、これからもこの「第三帝国」という堂々たる訳語を使っていっていいんじゃないかと思う次第です。

 ただドイツの文脈で「帝国」と出てきた時には、心の中で「ライヒ」とルビを打って「これはドイツ独自の意味があるんだ」と思うことは必要でしょう。そうすれば、「帝国」という訳語はなかなか適切なものになるように思います。

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参考

虚構のナチズム―「第三帝国」と表現文
NHKスペシャル 映像の世紀 SPECIAL BOX

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