| 第一部 ロシアの東進と対する日本の姿。 | |
| 1. ウラルの彼方風荒れて 東に翔ける鷲一羽 渺々遠きシベリアも はや時の間にとび過ぎて |
ウラル山脈の彼方ヨーロッパからアジアに向けて東進し、シベリアもすでに走破したロシアの姿。 【鷲】・・・ロシアの象徴。ロシア帝国は「双頭の鷲」を国章とした。 |
| 2. 明治三十七の年 黒雲乱れ月暗き 鶏林の北満州に 声物凄く叫ぶなり |
北清事変(1900年)ののち、満洲に駐屯して実効支配を目論むロシア。 【明治三十七年】・・・1904年。日露開戦の年。 |
| 3. 嗚呼絶東の君子国 蒼浪浸す一孤島 銀雪高し芙蓉峰 紅英清し芳野山 |
対する日本の姿。島国、富士山、紅葉、吉野といった日本のイメージを喚起。 【君子国】・・・日本。『続日本紀』より。 |
| 4. これ時宗の生れし地 これ秀吉の生れし地 一千の児が父祖の国 光栄しるき日本国 |
続いて対外戦役で活躍した日本人をあげる。元寇の北条時宗、朝鮮征伐の豊臣秀吉。 【一千の児】・・・当時の一高の生徒数。 |
| 5. 荒鷲今や南下しつ 八道の山 後に見て 大和島根を衝かむとす 金色(きんしょく)の民 鉾取れや |
再びロシアの描写。半島を南下して日本に迫る様子。対して、黄色人種(金色の民)の日本人よ、武器を取れと呼びかける。 【八道】・・・朝鮮の行政区画。ここでは朝鮮の意。 |
| 第二部 過去のロシアの暴虐を回顧する。 | |
| 6. 十年(ととせ)の昔 丈夫が 血汐に染めし遼東の 山河欺き奪ひてし ああその恨み忘れんや |
三国干渉。 |
| 7. 北州の北 熊吼ゆる サガレンの島これ昔 我 神州の領なるを 奪ひ去りしも亦彼ぞ |
千島樺太交換条約。樺太は江戸時代より日本人が探索していた土地であるにもかかわらず、ロシア領となってしまったことへの恨み。 【サガレンの島】・・・樺太。 |
| 8. 西暦一千九百年 恨は長きアムールや 魯人の暴に清の民 罪なく逝けり数五千 |
アムール河の流血事件。1900年、北清事変の報復としてロシアが自国領内の清国人を虐殺してアムール河に投じた事件のこと。虐殺された数はここでは5000としているが実数は不明。日露戦争前の日本ではロシアの暴虐を象徴するものとして有名な事件であり、1901年の一高寮歌「アムール河の流血」にも歌われた。 |
| 9. いふ勿れ唯 清人と 金色の民 彼も亦 嗚呼怨なり残虐の 蛮族いかで赦すべき |
8番の続き。同じ黄色人種の災禍に決起を促す。「蛮族」とはロシア人をいう。 |
| 第三部 過去の日本の対外戦争の英雄を回顧する。 | |
| 10. 玉なす御手に剣取り 華顔潮に湿(うるほ)して 高麗(こま)半島を懲(きた)めにし 神功皇后 君見ずや |
神功皇后の三韓討征。仲哀天皇崩御後、身重の皇后が九州の叛乱を援助していた新羅を討伐し、百済と高句麗も併せ服属させた外征。凱旋後生まれたのが応神天皇である。『日本書紀』より。今日では「歴史」よりも「神話」として扱われる。 |
| 11. 海を蔽ひて寄せ来る 敵艦四千 鎮西の 蒼溟深く沈めたる 彼 時宗を君見ずや |
元寇。 【鎮西の蒼溟】・・・九州の海の意。 |
| 12. 明 朝鮮を伐ちとりて 鳳輦遠く迢遙(てうえう)と 唐の都に謀りたる 彼 秀吉を君見ずや |
秀吉の明征服計画。朝鮮征伐は明制圧の第一歩であり、秀吉は最終的には印度を含むアジアの大帝国を建設しようとしていた。秀吉は、明制圧の後、明都・南京に天皇を遷し、その周辺の土地を献上する計画をたてていた。「大唐の都へ叡慮うつし申すべく候、その御用意あるべく候。明後御幸たるべく候。しかれば、都廻の国十カ国これを進上すべく候。」(『古蹟文徴』) |
| 13. 時宗の裔 鉾取れや 秀吉の裔 太刀佩けや 恨尽きせぬ蛮族を 屠り尽さむ時至る |
以上のような対外戦争を戦った英雄の末裔である我々が今こそ武器を執ってロシアを倒す、という。 |
| 第四部 対露戦争の勝利予想。 | |
| 14. 貔貅(ひきう)たちまち海を越え 旅順ダルニー蛮族の 血汐に洗ひ遼東の 山河再び手に収め |
遼東半島を奪還。 【貔貅】・・・精鋭兵の意味。『史記』に見える。 |
| 15. 朝日・敷島 艨艟の 精を尽して波を蹴り ロシア艦隊葬りて 翠波収まる日本海 |
日本海軍の勝利予想。「朝日」「敷島」は日本海軍の軍艦(艨艟)。図らずも翌年の日本海海戦を予測している。 |
| 16. 砲火に焼かん浦塩や 屍を積まんハルピン府 シベリア深く攻入らば 魯人も遂になすなけむ |
日本陸軍の勝利予想。ロシア本土への進行も。 【浦塩】・・・ウラジオストック。 |
| 17. 斯くて揚らむ我が国威 斯くて晴れなむ彼の恨 金色の民 鉾取れや 大和民族 太刀佩けや |
このような勝利を収めることで、我が国威もあがり、かつての恨みも晴れる、という。 |
| 第五部 今までの箇所を踏まえてのまとめ。 | |
| 18. ああ絶東の君子国 富士の高嶺の白雪や 芳野の春の桜花 光示さむ時至る |
再び日本の描写。 |
| 19. 忍ぶに堪へぬ遼東や またサガレンやアムールや ああ残虐の蛮族に 怨返さん時至る |
再びロシアの暴虐回顧。 |
| 20. 金色の民いざやいざ 大和民族いざやいざ 戦はんかな時期至る 戦はんかな時期至る |
そして目下の戦争への決意を促す。 |
<備考> |
| [曲について] 1904年の日露開戦直前に作詞された、第一高等学校寮歌「ウラルの彼方」です。一高は今で言えば東大の教養学部にあたりますが、そのようなところで以上のような軍国調の歌が高唱されていたわけです。 作詞者は一高生徒。旋律は1901年の「アムール河の流血」の使い回しです。この旋律は、のち軍歌「歩兵の本領」や労働歌「聞け万国の労働者」にも転用されました。 上では全部で20ある歌詞を、適宜「部」に区分けして内容の把握に努めています。勿論、原詩にはこのような「部」はありません。 - 「ウラルの彼方」はビクターの「軍歌・戦時歌謡大全集」に収録されています。ただし全番ではないので注意です。これ以外では音源はなかったかと思います。これをもとにした「歩兵の本領」は有名ですから様々なところに録音が入っています。例えば「軍歌・戦時歌謡大全集(1)明治・大正の軍歌」。 「ウラルの彼方」も「アムール河の流血」も入っていませんが、戦前の寮歌を集めたCDもあります。こちら。 |